09/03/25 かおるさんへ

かおるさん、お元気ですか?

早いもので、あれからもう随分、永い月日が経ちましたね。

最後に貴女と別れた時のことを覚えていますか?
きっと貴女はとても傷つき、怒りそして悲しんだことでしょうね。
僕はそのことさえ思い出すことが出来なかった.....


今から3年前の秋、20時過ぎに帰宅した僕は何気なくテレビのスイッチを入れた。
流れていた番組は、生まれ変わりをテーマにしたもので丁度、何度生まれ変わっ
ても結ばれない、悲しい運命を持つ一組の男女の再現ドラマを流していた。

それを見ていた僕は、突然、あることを思い出しその内容に愕然とした。
思い出したのは貴女と初めてコンサートへ行った時の不思議な出来事だった。

演奏が始まり、その日、笑顔がなかった貴女が気になり僕が瞳を覗き込んだ瞬間
にそれは起きた。
....何者かの声が聞こえてきた。
それは頭の中へ直接語りかけているようで回りの誰もその声に気づいてはいない
ようだった。
言葉は鮮明で衝撃的だったがその意味が僕には全く理解出来なかった。

このいかにも信じられないような話を貴女に話そうと思ったがコンサートの最中
でもあり僕は黙ってしまった。
コンサート後にこの出来事を話そうと思ったがそれが余りにも突飛な話であった
ため、僕はまだ若い貴女が理解できないだろうと思いその夜、話すことを諦めた。
これから僕たちには、多くの時間があるから急ぐことはないと考えた。

永遠の時間が過ぎ、その言葉の意味がやっと理解できた。
あのメッセージは、生まれ変わりを示唆していたのだと分かった。

その日から僕は、記憶を手繰り寄せ始めていた。
この衝撃的な出来事により僕は仕事も手に付かなくなり毎日、過去の記憶と向か
い合っていた。
しかし、この記憶は検証すればするほど深い悲しみと絶望をもたらした。
それは貴女と初めて会った時、貴女が運命の女性だと分かったこと。
結婚するのは貴女しかいないと思っていたこと。
初めて会った時から貴女を愛していたこと。
デートの度に貴女にプロポーズしようとそのきっかけを伺っていたこと。
貴女を失っては生きてはいけないと考えていたこと。

だが、この記憶は蘇るほどに辻褄が合わなくなっていった。
おかしいと気付くきっかけは、「普通、そんな昔のことを事細かく覚えている人
はいないよ」という親友の一言だった。
そう、この記憶は完全に矛盾していた。

それまで僕は、貴女をずっと片思いの女性だと想っていた。
貴女と幾度もデートしていた事実に全く記憶が無かったこと、また貴女のことを
狂おしいまでに思っていたその根拠が分からなかった。

検証された記憶には、あの僕らを引き裂く原因となったストーカーがいた。
記憶を手繰り寄せる中であのストーカー事件の全容もほぼ明らかになった。
貴女を苦しめ、僕を貶めたあのストーカーが偶然やってきたのではなく複数の人
間が謀議したいたずらの結果やって来た。

記憶が蘇り約1年、僕はやっとあいつに恫喝された時に起きたフラッシュバック
が貴女との記憶を失わせたことに気付いた。

過ぎ去った時間はもう戻しようがないだろうが、あの時、言えなかった言葉を聞
いて欲しい。
「貴女を愛していた。貴女は僕の全てだった。」

もう永遠と思えるような時間が過ぎ去ったが、僕は今も貴女を愛している。
時間は永遠に過ぎ去ったように思えるが僕にとって失われた時間はたった3年だ
から。

from t


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