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05/04/12 進めない未来に、戻れない過去 中学校に入学して、新しい友達もできて、これからどんな中学校生活が始まるのだろうとドキドキしていたあの頃・・・。友達の何人かにそれぞれ好きな人が出来始めて、その中でも先輩に恋をする子が沢山いた。友達につられて一緒になって先輩達を見ていたものの、特に意中の先輩がいなかった私は、ただ黙って友達と一緒に何気なしに笑っているだけだった。今でも忘れられない、あの先輩の姿に気付くまでは。 今でも、そして生涯忘れたくない健太先輩。 健太先輩に恋に落ちた時のことは、覚えていない。ただ言えることは、友達と一緒に上級生を見ているうちに私の瞳はいつの間にか、たった一人の彼の姿を探すようになっていたことだけ・・・。同級生の友達に健太先輩のことを聞いてみると、小学校が同じ母校ということもあり、住んでいる場所や弟がいることがすぐにわかった。その日から私は健太先輩に夢中になった。たぶんその時の私は恋に恋をしていたのだろう。 健太先輩は、私より2つ上の3年生で、1つ下の2年の男子ととても仲が良いようだった。少し不良っぽくて怖そうだったけど、笑うととても素敵な人。芸能人の武田真治さんに似ていて、私は友達と影で「武田君」と呼んでいた。話しかけることもなく、話しかけられることもないまま数ヶ月が経ち、クリスマスが近づいてきた。私と友達の数人で、それぞれ好きな先輩にクリスマスプレゼントを渡そうということになった。プレゼントを用意し、クリスマス当日、友達と一緒に健太先輩の家へ向かった。健太先輩の家まであと数メートルという場所まで来た時、なにやら見覚えのある数人の男子の姿が見えたので、立ち止まり様子をみてみると、そこには健太先輩と、ひとつ下の2年の男子達がたまっていた。しばらくの間立ち去るのを待ったが一向に去る様子がないので、意を決して自転車のペダルを漕ぎ、猛スピードで先輩達の横を通り過ぎ、プレゼントを先輩宅の郵便受けに詰め込むと、再び先輩達の横を通り過ぎて去った。そんな不審な行動をすれば、当然先輩達は怪しむだろう。事実、先輩はこちらをずっと見ていたし、友達も「うん。凄い見られてたね」と言っていた。先輩へのプレゼントには、手紙も添えた。自分の名前もきちんと書いたので、先輩にその気があるのであれば私が誰なのか、学校で調べることができるだろう。だが調べられることはないだろうなと思っていたにも拘わらず、意外にも早く、私のことが知られてしまっていた。 冬休みも終わった1月某日、授業が終わり自転車置き場に行くと、健太先輩本人とその仲間がたまっていた。私が友達と一緒に先輩達の横を通りすぎようとした時、先輩の中のひとりがワザとらしく「健太〜!」と叫んだ。びっくりしたが、嗚呼やっぱり知られてしまったかと思った程度だった。次の日の放課後、帰宅しようと再び友達と自転車置き場へ行くと、タイミングを合わせるかのように健太先輩が横からスッと出てきた。私と友人の歩くすぐ前を、健太先輩はゆっくりと自転車を漕いでいた。すると私と友人のすぐ後ろに、先輩の仲間2名がやって来て、昨日同様「健太〜!」と叫び、チラッと私の顔を見ると、叫んだ男はもう一人の仲間にコソコソと耳打ちしていた。実に中学生男子らしいからかい方だよなあと思う。その後も、来る日も来る日も「健太先輩〜」「武田く〜ん」等とさんざんからかわれたのだが、私はなぜか嫌な気はしなかった。仲間が私をからかう時、健太先輩本人だけは下を向き、こちらを見ていなかったことが今でも印象深い。 ある日、同じクラスの剛という男子が健太先輩と話している姿を目撃した私は、先輩と仲が良いのかと剛に聞いてみた。剛は仲が良いと答えたので、羨ましいと絶叫した。そしてなぜかその日以降、休み時間に剛と話をしていると健太先輩が現れることが多くなったりして先輩を今までより傍で見ていられるようになった。けれど、先輩と私にはなにひとつ接点はなく、やはり話は出来ないままだった。それから数日後、美術の授業が2時間続けてあった日に、1時間目の美術が終わり、息抜きに廊下へ出ると、数メートル先に健太先輩の姿があった。偶然の発見に心踊らせていると、教室から剛がでてきた。剛に、向こうに先輩がいることを教えると先輩もこちらを見ていたので、剛に先輩の所へ行って来いと言った。歩み寄ってきた剛に先輩は優しい笑顔で話しかけていた。私はその笑顔を遠くで見ていることしか出来ず、これが実際の先輩と私の距離なんだなあと、切なくなった。2時間目の授業が始まり、剛に先輩となんの話しをしていたのかと尋ねた。 剛は「エロい話」と言って笑った。そしてその次に「望月のことも話してたよ。でも俺、遊んでて聞いてなかった」と言った。確かに先輩と一緒にいた時の剛は先輩にオモチャにされ笑い転げていたので、話を聞く余裕はなかったのかもしれない。その他にも、私のほうを気にしているようなことを言っていたようなので、話したことはなくても顔は覚えてもらっているのだと嬉しくなった。2時間目の美術が終わった時に、友人が画用紙に健太先輩の似顔絵を描いたので、その紙を剛に渡し、先輩に匿名で渡してみてくれと頼んだ。授業が終わり、掃除の時間に剛は似顔絵を渡す為に健太先輩を待っていた。掃除が始まるとトイレ掃除をしていた友達が、トイレの窓から下を見てみろと言いに来たので見てみると、そこには健太先輩と剛の姿があった。掃除が終わり、似顔絵の紙はどうしたと剛に聞いてみると、「すぐに望月ってわかってたよ。あの紙捨てたって」と言った。すぐに私とわかってくれたことが、私はとても嬉しかった。そして放課後、帰ろうとして下駄箱から靴を取り出すと、そこには靴を取ったら見えるように、先輩の似顔絵の紙が入っていたので私は物凄く驚いた。まさか先輩にこんな粋なまねをされるなんて思いもよらなかった。でもそんな些細なことが私には宝物で、その紙は今でも大切に当時の日記に挿んである。月日は流れ、バレンタインデーがやってきた。意気地のない私は、やはり直接渡すことが出来ず、先輩宅の郵便受けに入れることしか出来なかった。先輩と一度も口を利かぬまま、先輩の卒業式はやってきた。寂しくて辛くて式の間は先輩の姿を見ることが出来なかった。式も終わり、自転車置き場へ行くと、卒業生が名残惜しそうにまだ帰らずたまっていたので、私の友人はそれぞれ好きな先輩の元へ行き、制服に付いている名札をもらっていた。そんな度胸のない私は諦めようとしたのだが、ひとりの友人が私の手を引っ張り、健太先輩の元へ無理矢理連れて行った。ここまできたからには言うしかないので、「第二ボタンをください」と言った。しかし声が聞き取れなかったらしく、先輩は笑顔で「えっ?」と聞きなおしてきた。もう一度言うと「第二はちょっと・・・」と言われてしまったので、「・・・名札・・・ください」と言うと先輩は四つ角を糸で縫われている名札を手で引っ張ってとると、私の目をみて笑顔で「はいっ」と渡してくれた。この名札を手渡され、受け取る瞬間が今までで一番先輩との距離が縮んだ時だった。そして本日をもって中学を卒業してしまう先輩とは、二度と逢うこともなくなるのだ。いつまでも想っていても仕方がない、先輩のことは忘れるよう努力しよう。そう自分に言い聞かせた。 卒業式が終わり春休みに入った。先輩のことはまだ忘れられそうにない。でも忘れなきゃ・・・忘れなきゃ・・・。 春休みも終わり初業式が始まった。私は中学2年生になった。クラス替えもあり、今まで先輩について一緒に盛り上がり会話に華を咲かせていた友達とは別々のクラスになり、たまに話はするものの先輩の話はしなくなった。友達はもう、それぞれ別に好きな人をみつけていた。あんなに騒いでいた先輩への想いはそんなものだったのかと寂しかった。いつまでも想い続けている私がおかしいのか・・・私は、無理矢理にでも別に好きな人をつくってみよう、そうすれば忘れられるかもしれない、そう思い、健太先輩と仲の良い私より1つ上の学年の友和先輩を好きになるよう自分を洗脳した。友和先輩を見ると、いつも健太先輩と一緒にいる姿を見ていたせいか、健太先輩を思い出してしまう。しかし、私はもう健太先輩は忘れたんだ!と、再び洗脳した。 初業式が始まって3ヶ月も経った頃、自転車置き場で友人とたまりこんでいると、高校の制服を着た男子が数名、友和先輩率いる例の仲間と話をしている姿が見えた。私はその中のひとり、そう、健太先輩に目が奪われた。何年も見ていなかったわけじゃない。でも高校生になった先輩はとても大人びて見えた。一緒にいる私の友人が皆「健太先輩来てるじゃん!」と言った。私は「でも今は友和先輩が好きだから」と嘘をついた。私が健太先輩を忘れようとしているのにはもうひとつ理由があった。先輩が卒業する前、先輩には彼女がいるらしいという噂を聞いたのだ。だから、卒業式に第二ボタンをもらえなかった時も、さほど落ち込まなかった。もう二度と逢えることはないと思っていたのに、一番忘れたかった顔を見てしまった。だが先輩は高校生。いつもここにいるわけじゃない。今日は偶然逢えたけど喜んじゃ駄目。また振り出しに戻っちゃう。しかし神様はなにを考えているのだろうか。次の日も、そのまた次の日も、本当は卒業していないんじゃないかというくらい毎日のように健太先輩は中学の自転車置き場に姿を現した。 私が友人とたまっているわずか数メートルのところで先輩の姿が毎日ある。不思議な感覚だった。そんな毎日が続いたある日のこと。午後から小雨が降り出したようで、傘をもっていなかった私を含む友人は 放課後、自転車置き場の屋根の下でいつものようにたまりこみ、会話に華を咲かせていた。そしてその数メートル先にはやはり先輩達の姿があった。卒業した先輩達も含め、今までで一番先輩達の数は多かった。私と一緒にいた友人が私に、友和先輩の写真を撮ってきてあげようかと言った。私が頼むと、その友人と私ともうひとりの友人の計3名で、先輩達の元へ向かった。写真を撮ってくれると言った友人が、先輩達に向かって本当に撮らせてほしいと頼み込もうとしたので、私ともうひとりの友人はその子を置き去りにして逃げようと足早にその場を去ろうと歩きだした。すると写真を撮ってくれると言った友人が「望月さ〜ん」と後方で呼ぶので、私は歩きつつも後ろを振り向くと、写真を撮ってくれると言い出した友人が、我が中学を卒業した先輩と私の元へ向かって歩いてきた。なんだなんだと不思議に思っているとその先輩は私に向かい「君が望月さん?」と尋ねてきた。はいと答えるとその先輩は「ちょっと来て」と言い出した。この先輩のいうちょっと来てというのは、紛れもなくあの先輩達の輪の中に来いということであろう。そして私を指名するということは100パーセント健太先輩について話があるのだろう。友和先輩についてということは、まず無い。「怖いんで嫌です」私がそう答えるとその先輩は負けずに来て来てと連呼した。仕方が無いので友人をその場に待たせ、私は先輩の後についていった。先輩達の集まっている横まで来るとその先輩は「一番奥にいる健太って人のところに行ってくれる?」と言った。言われるがままに数々の先輩達の前を通り健太先輩の前まで行くと、健太先輩は「俺、なにも用ねえよ〜」と仲間達に言った。先輩達は「さっき話してただろ!」と健太先輩に言った。しばらくすると先輩のひとりが私の横へやって来て「君から話しかけなよ」と言った。しかしこんなところに連れて来られただけでも驚いているというのに、私から話しかけるなんて出来るわけがない。第一、呼び出したのはそちらのほうであって私は呼ばれた側なのだ。私は小雨に濡れたまま黙り込み、健太先輩も俯き黙ったままだった。他の先輩達は「俺ら邪魔だから向こう行ってようぜ」「裏に行って話してこいよ」と言っていた。健太先輩の横では友和先輩が「健太!頑張れ!」と何度も言っていた。健太先輩を忘れる為に好きになった友和先輩を、こんなに近くで見れることになる理由がまさかこのようなかたちでなんて、これだから人生なにがあるかわかったもんじゃない。私がそのようなことを考えていると友和先輩が「まだ健太のこと好き?」と聞いてきた。私は返答に困った。確かに実のところはまだ大好きである。しかし本人を前にして好きですなんて恥ずかしくて言えないし、好きですよと言ったところで「ゲ〜!マジかよ」等と万が一言われでもしたら立ち直れない。そして私は考えた末「・・・前は・・・」と返事をした。するとすかさず「今は?」と返された。当たり前の流れだ。前に好きだったことくらい先輩 達は皆知っている。聞きたいのは私の今の気持ちなのだろう。私が黙り込んでいると「今は他に好きな人がいる・・・とか?」と聞かれた。目の前にいる健太先輩のほうを見ると、相変わらず俯いたままで、健太先輩は私がここにいるのが迷惑に思っているのではないかと感じた。私のほうを見もしないなんて、早く向こうに行ってくれよと思っているに違いない。この期に及んで好かれたいだなんて贅沢言わないから、嫌われることだけは避けたかった。私は先程の先輩の質問に対し「・・・かっこいいとは思うけど、彼女いるって聞いたんで・・・」と答えた。好きだけど、諦めざるを得ない状況なんだと思ってくれればそれでよかった。しかし私の言葉に対し先輩達はざわめきた。「彼女?健太彼女なんていた!?」「前はいたけど別れたよなあ」そう先輩達が言っていると今までずっと黙っていた健太先輩が顔を上げ「俺、彼女いねえよ」と口を開いた。びっくりした私はただ頷いていると周りの先輩達が「ヒュ〜ヒュ〜!ラブシーンしてんなあ〜」と茶化した。そして他の先輩が「健太彼女いないってよ」と言ってきたが、私はそれ以上なにも言えなかったし、皆、私になにを言ってほしいのかもわからなかった。小雨が私の身体を重くし、濡れたまま佇んでいるとひとりの先輩が傘に入れてくれ、「可哀想に、彼女が雨に濡れちゃってるだろ」と言ってくれた。その後も沈黙が続くと、ひとりの先輩が「・・・もう行っていいよ」と言ったので私は頭を下げ、その場から走り去った。私を待っていた友人に今あった出来事を話すと皆「それ、先輩あんたのこと好きだったんじゃないの?なんで本当の気持ち言わなかったのよ」と言われた。私はその考えは違うと未だに思うが、実際先輩はあの時なんの用で私を呼んだのか、再び先輩に逢うまでは誰にも解けない問題であろう。それから数日後、友達と集まった時に、皆で好きな人に電話で告白しようという話になった。告白大会の始まりだ。夜の9時頃、告白する順番を決め、私は健太先輩の自宅にかけた。先日あのようなことがあったばかりだし、ちょっとかけづらいよなあと思ったが、まさか友和先輩にかけるわけにもいかないので、ここは正直に健太先輩に告白するしかない。電話をかけると弟が出たので、健太先輩にかわってもらうよう頼んだ。しばらくすると健太先輩がでたので「望月ですけど・・・」といったら「はい」と返事が返ってきたので「あの・・先輩は今、好きな人や付き合っている人はいますか?」と尋ねた。すると「いません・・・」と言われた。先日、この件に関しては聞いたばかりなので、いないと言われても当たり前だった。ここで「いるよ」と言われたら悲しすぎるよなあと思う。続けて私は「もし良ければ付き合ってほしいんですけど」と本題にはいった。それを聞いた先輩は「えっ!?」と聞き返してきた。思えば卒業式で名札をもらう時も同じリアクションをしたので、可笑しくなり少し笑いながら再度言った。すると先輩は「・・・わからない・・・」と返事を返してきた。私の心の中では完全に振られた時の返答しか準備していなかったので、わからないと言われ、こちらのほうこそどうしたら良いのかわからなくなってしまった。そして出てきた言葉が「わかりました・・・じゃあいいです」だった。そして電話を切ったのだが、結局わかったんだかわからないんだかよくわからなかった会話であった。その後、時々地元の町で先輩の姿を見かけることはあったものの、接触はしていない。あれから約10年が経つ。どうしてだろう、今まで逢った男性の中で先輩のことだけはどうしても忘れることが出来ない。というかきっと、忘れたくない。現在私には長年交際している男性がいる。とても幸せだ。だが一方で、こうして先輩を捜し続けている私がいる。とても知人伝に、健太先輩はまだ結婚していないと聞いた。やはり嬉しかった。先輩がどんなに昔と変わっていようが、仮に実際逢って思っていた人と違っていたとしても、とても逢いたい。いっそのこと、私の期待を裏切ってくれても構わない。この思いを、どうにかしたくて仕方がない。私は健太先輩が結婚したと知るまで、結婚はしたくない。きっと、絶対、後悔するから。 もう一度、顔を見て、声が聞きたい。逢って話しがしたい。 自宅の電話番号も覚えているのに、10前の私と変わらず、かける勇気もない。 A.Mより このメッセージはあなたのことを忘れられないあの人が書いたものかも知れません。 返事を書いてみませんか。 こちらからどうぞ |