19/02/15 「夜空ノムコウ」スガシカオ

遊園地に行くとジェットコースターには2回乗るのが、彼女のルールだった。
風になぶられ、ぼさぼさになった彼女の髪を直してやるのが僕の仕事だった。
髪を直し終えると彼女はいつも「ありがとう」と舌を出して笑う。
僕はその笑顔が大好きだった。

高校のクラスメートだった僕らは文化祭の打ち上げの夜、
みんなに隠れてこっそり手を繋いで恋人同士になった。

20歳を越えてにもどこか子供っぽい彼女を僕はいつもからかった。
そのあどけなさが好きだった。
大学を卒業した彼女は一浪した僕よりもひと足先に社会に出た。

仕事が忙しくて以前みたいに会えなくなった彼女は、
いつの間にか大人っぽくなっていた。
同じ会社の10歳も年上の先輩と恋に落ちていた。
奥さんのいる男の人だった。

「好きな人ができたの、ごめんね」と言った彼女に僕は何も言えなかった。
「不倫なんてやめろよ」なんて言ってしまったら、
自分が社会のルールに縛られた、
つまらない大人になるのを認めてしまうような気がしたのだ。

子供なのは僕の方だった。
彼女とジェットコースターに乗っていた、あの頃からずっと。

東京都文京区 シゲル 34歳


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